住宅設計のご依頼を頂く中で、なるべくワンルームに近い間取りにしたいというご要望を多く頂きます。
住宅のほぼ全ての部屋が繋がっている状態ですから、その広がりや解放感はとても気持ちの良いものになります。しかし、この大きく繋がった空間の温熱環境を整えるために、毎回頭を悩ませます。
空調設備計画に最大能力の住宅用エアコンを組み込んでフルパワーで稼働させると、冬30~夏40畳=15~20坪程度の面積の温度がコントロールできます。
住宅用エアコンの基準天井高さは2.4m程度ですので、体積にすると冬120~夏150m3です。
(冬の方が数字が小さいのは、冷ますよりも温めるのはそれだけ大変ということです)
一般的な間取りと天井高さであれば十分な空調能力ですが、開放的な間取りの場合はまったく足りませんし、いずれにしてもエアコンによって快適な温度にするには光熱費が凄いことになります。
そこで、空調設備計画に自然から得られる太陽熱や放射冷却効果を組み込んだ設計を行います。こういった仕掛けを設計することをパッシブデザインやOM設計と呼びます
■設計事例1:十条の住宅1
3階は冬でも陽当たりが良く半袖でも暖かいくらいの室温になる設計条件でした。
左の写真が2階のリビング、右の写真は3階の将来子ども室です。
冬季においては、子ども室に入ってきた太陽熱を黒色の送風ダクトで2階の床下へ吹き降ろしています。
エアコンに比べてとても簡易な設備で済み、自然の熱を利用した全館空調+床暖房の効果を得ています。
夏季においては、建物の表面の空気の流れに室内の換気経路を結び、太陽熱も組み合わせた重力換気と水蒸気の排出を行っています。
屋根裏部屋は暑い!というイメージをお持ちの方は多いかと思いますが、これは屋根面の太陽熱と室内の熱が建物の一番高い場所へ集まるためです。上昇気流の力を利用して、地表面の冷たい空気を室内へ取り込み、換気する方式を重力換気とよびます。
さらに、上昇気流に乗せて、室内で発生する水蒸気を排出する計画にすると、室内の湿度を下げつつ気流が発生している状態になります。
湿度と気流を「スミナールの計算式」によって判断すると、体感温度を数度下げる効果を得られるという仕組みです。
光熱費への効果では、以前にお住まいだった、ここよりも広い賃貸マンションの時よりも光熱費が大幅に下がったとのお話でした。
(とはいえ、自然の力を使いますので、天候の悪い日が数日続くとエアコンが必要になるというのも、パッシブデザインやOM計画の特徴かなと思います、、)
■事例2:設計中
十条の住宅2でも同じように、パッシブデザインやOM計画を組み込んで設計を進めています。とはいえ、こちらの設計条件に適したものにしないと効果が発揮できません。
毎回、敷地に立って頭を悩ませるのですが、、、こちらは計画地の近傍の写真です。
暑い日差しの時期でしたが、野生の猫は涼しい場所をみつけて寝ています。
よく観察すると夏でも涼しい場所があるのが解ります。この涼しい場所から空気を取り込み、冬は冷たさを遮断して、太陽熱を貯金するような仕掛けが良いのかもしれません。
いまだに、建築家の建てる家は「デザインは良いけど、断熱を考えていない」と耳にすることがあります。
そんな状況をはやく変えられるように、「デザインも良いし、断熱は勿論のこと、自然の力で快適に暮らせる!」と言われるようになったら良いなと思い、設計を進めています。
少し追記
いずれも、天井の高い、気積の大きな計画です。
ここで、面白い現象が起こっていることが判りました。
夏場の室内ですが、暑いことは暑いのですが、なぜか快適に感じるということです。
何もしていない状態での空気を調べてみると、屋外よりも室内のほうが湿度が10%程度以上低くなっていました。
スミナールの計算式に当てはめると、同じ温度でも湿度が低くなると体感温度が下がります。ここに自然換気の微風が加わると室温そのものは高くとも快適になります。
気積が大きいため湿度や汚染空気は高い方へ抜けて行き、人の居るエリアの湿度は低くなる。
過去の、病気が未知のものであったり、エアコンの無い時代の民家の設計を見ると、大きな屋根があり同じような断面構成になっています。
自然で快適な暮らしのための工夫の一つだったのかなと思いつつ、設計を進めています。
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